大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和55年(行ウ)79号 判決

原告 西野建設株式会社

被告 泉大津税務署長

訴訟代理人 一志泰滋

主文

一  被告が昭和五二年六月三〇日付で原告に対してした、原告の

(一)  昭和四八年七月一日から昭和四九年六月三〇日までの事業年度の法人税について所得金額を七、一〇〇万三、〇五二円とする更正処分(但し、裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額二、九八七万四、二五七円を超える部分

(二)  昭和四九年七月一日から昭和五〇年六月三〇日までの事業年度の法人税について所得金額を四、三七七万〇、八三四円とする更正処分(但し、裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額一、六二二万二、九二〇円を超える部分

二  被告が昭和五二年一二月二六日付で原告に対してした、原告の昭和五〇年七月一日から昭和五一年六月三〇日までの事業年度の法人税について所得金額を四、八二七万四、九九〇円とする更正処分(但し、裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額二、八八五万一、二一一円を超える部分

三  被告が昭和五四年六月三〇日付で原告に対してした、原告の昭和五一年七月一日から昭和五二年六月三〇日までの事業年度の法人税について所得金額を七、四〇二万九、七五九円とする更正処分のうち所得金額五、〇〇二万五、八七〇円を超える部分

をいずれも取り消す。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は三分し、その一を原告、その余を被告の各負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

(一)  被告が昭和四八年八月三〇日付けで原告に対してした、原告の

1 昭和四四年七月一日から昭和四五年六月三〇日までの事業年度(以下、昭和四五年六月期という)の法人税について所得金額を一億八、一〇七万六、三七一円とする再更正処分(但し、裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額一億六、一三二万一、七六四円を超える部分

2 昭和四五年七月一日から昭和四六年六月三〇日までの事業年度(以下、昭和四六年六月期という)の法人税について所得金額を一億〇、〇一七万八、三二〇円とする更正処分(但し、裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額七、六一五万七、二八九円を超える部分

3 昭和四六年七月一日から昭和四七年六月三〇日までの事業年度(以下、昭和四七年六月期という)の法人税について所得金額を七、八三五万五、八九九円とする更正処分のうち所得金額六、二三〇万八、四八八円を超える部分

(二)  被告が昭和五二年六月三〇日付けで原告に対してした、原告の

1 昭和四八年七月一日から昭和四九年六月三〇日までの事業年度(以下、昭和四九年六月期という)の法人税について所得金額を七、一〇〇万三、〇五二円とする更正処分(但し、裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額二、九八七万四、二五七円を超える部分

2 昭和四九年七月一日から昭和五〇年六月三〇日までの事業年度(以下、昭和五〇年六月期という)の法人税について所得金額を四、三七七万〇、八三四円とする更正処分(但し、裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額一、六二二万二、九二〇円を超える部分

(三)  被告が昭和五二年一二月二六日付けで原告に対してした、原告の昭和五〇年七月一日から昭和五一年六月三〇日までの事業年度(以下、昭和五一年六月期という)の法人税について所得金額を四、八二七万四、九九〇円とする更正処分(但し、裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額二、八八五万一、二一一円を超える部分

(四)  被告が昭和五四年六月三〇日付けで原告に対してした、原告の昭和五一年七月一日から昭和五二年六月三〇日までの事業年度(以下、昭和五二年六月期という)の法人税について所得金額を七、四〇二万九、七五九円とする更正処分のうち所得金額五、〇〇二万五、八七〇円を超える部分

をいずれも取り消す。

(五)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  原告会社の請求原因

(一)  原告会社は、砕石及び土木工事を主体とする建設業を営む会社であつて、その事業年度を毎年七月一日から翌年六月三〇日までとしているが、昭和四五年六月期から昭和五二年六月期まで(但し、昭和四八年六月期を除く。以下本件係争年度という)の法人税について、別表(一)の「確定申告」、「修正申告」欄記載のとおり確定申告、修正申告をしたところ、被告は、同表の「更正」、「再更正」欄記載のとおり更正、再更正処分をした(以下、昭和四五年六月期については再更正処分のみを本件処分とし、昭和五一年六月期については昭和五二年一二月二六日付更正処分のみを本件処分とし、他の事業年度の更正処分を合わせて本件各処分という)。

原告会社は、本件各処分に対し、適法に審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、別表(一)の「裁決」欄記載のとおり裁決(一部取消し又は棄却)をし、そのころ原告会社に裁決書謄本を送達した。

(二)  しかしながら、本件各処分(裁決により一部取り消された後のもの)は、原告会社が負担する採石の跡地の盛土、植林等の費用(以下、本件自然環境回復費という)を原告会社の所得金額計算上損金に算入しないもので(その金額は後述するように別表(二)の「自然環境回復」欄記載のとおりである)、内容に違法があるから、請求の趣旨に記載の限度で(昭和四五年六月期、昭和四六年六月期、昭和五一年六月期については別表(二)の「差引正当所得金額」欄に記載の金額、昭和四七年六月期、昭和四九年六月期、昭和五〇年六月期については確定申告、昭和五二年六月期については修正申告の各所得金額の限度)、その取消しを求める。

二  請求原因に対する答弁と被告の主張

(認否)

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の主張は争う。

(被告の主張)

(一) 原告会社の本件係争年度の所得金額は、別表(三)の(1)ないし(7)に記載のとおりであり、その範囲内でされた本件各処分(裁決により一部取り消された後のもの)は、いずれも適法である。

(二) 本件自然環境回復費は、原告会社の本件係争年度の損金に算入できるものではない。

引当金は、法人税法(以下、法という)に規定されているものだけが認められるところ、法は、自然環境回復費を引当金として認めていない。したがつて、被告が、自然環境回復引当金を所得に加算したのは当然である。

三  被告の主張に対する原告会社の認否と反論

(認否)

(一) 被告の主張(一)のうち、別表(三)の(1)ないし(3)の事実、同表の(4)ないし(7)の加算金額中の「自然環境回復引当金当期繰入額」の部分を除く事実は、いずれも認め、その余は争う。

(二) 同(二)の主張は争う。

(原告会社の反論)

原告会社の本件係争年度の所得金額を算出するには、別表(五)の「未払金に計上できる金額」欄記載の金額(別表(二)の「自然環境回復」欄記載の金額と同じ)を損金として計上すべきである(そうすると、各所得金額は、別表(二)の「差引正当所得金額」欄記載のとおりになる)。その理由は次のとおりである。

(一) 原告会社は、採石地での事業が終了する時点で、巨額の自然環境回復費を支出する必要がある。すなわち、

1 採石地の所在、採石経緯等

本件採石地は、大阪府和泉市槙尾山町の山林地区内にあり、その位置等は甲第二号証の一、二の図面のとおりであるが、採石地の土地所有者ごとの、地番、面積、採石開始時期等は次のとおりである(実測面積は甲第三号証の一、二の実測図による)。

所有者

土地(山林)の表示

公簿面積

(平方メートル)

実測面積

(平方メートル)

採石開始時期

槙尾山施福寺

和泉市槙尾山町七九番地の一の一部

三一〇、三九三の一部

四六、二八四

昭和三九年

小川広一

同町九の一〇

二七、六六二

三〇、四二四

同 四〇年

山口元治

同町九の七

二一、〇六四

二七、六四二

同 五〇年頃

岩根定雄

同町九の一五

一五、七二二

二一、九〇六

右 同

原告会社は、当初昭和三九年ごろから、槙尾山施福寺所有山林の一部(実測四万六、二八四平方メートル)を借り受け採石業を始めたが、その後小川広一所有地、続いて山口元治、岩根定雄の各所有地を借り受け、槙尾山施福寺所有地を第一採取場、その他の土地を第二採取場と呼んで採石業を継続している。採石地の実測面積(平面)は右のとおり合計一二万六、二五六平方メートルに達する。

採石については、採石法の適用を受けるのはもちろんであるが、本件採石地は、金剛生駒国定公園特別区域内に所在し、自然公園法一七条三項の規定により一年以内ごとに訴外大阪府知事の許可を受けなければならず、許可条件とされている緑地化修景、安定勾配整形(採石後の隣地との境界が急斜面となる場合には段差を設け、その一部に客土、植林することなどを指す)等を義務づけられている(甲第四号証の一ないし三の許可書及び通知書参照)。

2 自然環境回復費支出の必要性

原告会社は、右各土地の所有者との間で、採石後の跡地には植林するか、植林できるような状態にする旨を約束しているのみならず、採石法及び前記大阪府知事の定めた土石採取の許可条件に従つた工事をする義務を負つている。すなわち、

(1) 槙尾山施福寺との間には、採石前に採石条件等を口頭で契約し、その後昭和四四年九月二七日付けをもつて右約旨を契約書(甲第五号証)に成文化したが、その六条には、採石跡地は原告会社の費用で植林する旨の記載がある。

ここで植林するという意味は、植林できない急斜面(隣接地との一部は急斜面となる)の一部を除き、平坦な部分には約二メートルの客土を入れ、急斜面には段差を設け、その一部には数メートルの客土を入れ、ここに最終的に杉又は檜を植えることを意味する。採石場の跡地は岩盤であるから、植林するためには、樹木の根が伸びやすいように約二メートルの客土を入れることが必要であり、更に杉又は檜を植えるためには、まず雑木を植え、三年ないし五年くらいこれを育て、その間の落葉、雑草等によつて、或る程度客土を肥えさせるか、それをしない場合には相当量の肥料を施す必要がある。原告はまず雑木を植え、その三年ないし五年後に杉、檜を植栽する予定である。

(2) 小川広一との間にも、採石前に採石の条件等を口頭で契約し、その後昭和四四年九月二七日付をもつて、右約旨を契約書(甲第六号証)に成文化したが、その六条には、原告会社は採石跡地を植林できる状態にする旨の記載がある。

ここで植林できる状態にするという意味は、右(1)と同様原告会社が、約二メートルの客土を入れ(小川の土地はほぼ全部平坦地となる)、雑木を植えて土を肥やし、土地所有者が植林できる状態にまですることを意味する。

(3) 山口元治との間にも、採石前に採石条件等を口頭で契約し、その後昭和五二年四月一九日付けをもつて右約旨を契約書(甲第七号証の一)に成文化したが、その七条には、跡地処理の費用分担は別途覚書を作成する旨記載され、これに基づく覚書(甲第七号証の二)には、跡地は良質の山土を約二メートル盛土し、初期の雑木の植樹等は原告会社が負担し、本格的植樹については、苗木代を地主、植付け手間賃を原告会社が負担する旨記載されている。右覚書には記載されていないが、山口元治の土地には急斜面が残るので、前記大阪府知事の許可条件に従い急斜面には段差を設け、その一部には、数メートルの客土を入れることが必要である。

(4) 岩根定雄との間の義務は、前記山口元治の場合と全く同様の内容である(甲第八号証の一、二の契約書及び覚書参照)。

3 そして、昭和五五年六月現在で自然環境回復費用(採石事業が一応終了したものとして見た場合のもの)を業者に見積らせたところ、

第一採取場関係で二億一、三九〇万〇、〇二二円

第二採取場関係で五億一、四二四万三、〇一九円

合計七億二、八一四万三、〇四一円である(甲第九号証の一、二の見積書参照)。

(二) そこで、法人税基本通達(以下、通達という。但し、昭和五五年五月一五日直法二―八による改正前のものは旧通達という)二―二―四の趣旨に従い、その算式を用いて計算すると、本件係争年度の自然環境回復費は、別表(五)に記載のとおりになる(見積額については、建設工事費デフレーターによつて時点修正をしている。算出過程については甲第一五号証、同第二五号証参照)。

なお、原告会社が、昭和四九年六月期ないし昭和五二年六月期の法人税の確定申告(修正申告)でした自然環境回復引当金当期繰入額の算出方法は、別表(六)のとおりである。

(三) 本件自然環境回復費を本件係争年度の損金に計上することができる根拠は、次のとおりである。

1 法二二条三項は、法人の各事業年度の所得の計算上、当該事業年度の損金の額に算入すべきものとして、一号に売上原価、完成工事原価その他の原価(以下、一号原価という)、二号に販売費、一般管理費その他の費用(以下、二号費用という)、三号に損失(以下、三号損失という)を列挙しているが、本件自然環境回復費は、一号原価に当たる。すなわち、

(1) 通達二―二―四は、砂利採取地に係る埋戻し費用の規定であるが、通達第二章第二節では法二二条三項の損金の分類に従い、第一款売上原価等、第二款販売及び一般管理費、第三款損失と区分し、通達二―二―四の規定は、第一款売上原価等のなかに置かれている。これは砂利採取地に係る埋戻し費用及びこれと同視すべき本件自然環境回復費(植林費用を含む)が、一号原価であることを国税庁自身が認めたといえる。

また、通達二―二―四は、埋戻し費用を原価の一分類である取得価額と規定し、通達改正に携わつた担当官らが、「取得価額として計算することが収益、費用対応の関係から見てより合理的であることは言うまでもない」と解説している。

(2) 一号原価は、個別的な費用収益対応の原則による原価であり、二号費用は、収益と個別に対応して計算することの困難な費用、すなわち、期間対応の費用であり、三号損失は、費用に対する概念で、風水害、盗難等の偶発的な事故によつて生じた滅失損や、その他貸倒れによる売掛金の喪失、消滅時効の完成による債権の消滅等、何ら効果を伴わぬもので所得を減少せしめる絶対的な価値の喪失をいうとされているが、本件自然環境回復費は、採石販売による収益に対応するものであつて、二号費用や三号損失には当たらない。

(3) 原価計算基準は、「原価の本質」の項で、「原価とは、経営における一定の給付にかかわらせて、は握された財貨又は用役の消費を、貨幣価値に表わしたものである。」としているが、本件自然環境回復費は、右「原価の本質」と一致する。

(4) 本件自然環境回復費は、その性格からみても一号原価である。すなわち、

本件自然環境回復費は多額である上、採石収益を得るために是非とも必要な損金であり、かつ、その費用の総額は、契約等の内容上自ら明らかであり、費用収益対応の原則、公平の原則、資本充実の原則等いずれの観点からも、一号原価に当たることは極めて明白である。

(5) 本件自然環境回復費は、事後的費用ではない。すなわち、

事後(的)費用とは、「販売品につき販売時以後に発生する費用あるいは売価基準で評価する資産につき評価時以後に発生する費用をいう。販売時以後に発生する事後費用としては、代金の請求(または催促)および集金の費用(代金回収費)、販売時以後特定の期間にわたる製品保証に関して発生するアフターサービス費、売上債権の貸倒損失などがある。」とされている。

したがつて、事後的費用であれば一号原価となり得ないが、事後的費用というのは、債務の発生が偶発的なものであることをその特色とするものであるから、本件自然環境回復費は事後的費用ではない。

(6) また、見越費用とは、対外的取引に基づかない修繕引当金、保証債務引当金あるいは準備金などをいうが、本件自然環境回復費は、対外的取引に基づくものであるから、見越費用ではない。

2 法二二条三項は、二号費用については「当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く」と規定し、債務の確定を損金算入の必要条件としているが、一号原価については右の規定がない。したがつて、一号原価については、各事業年度末に債務が確定していることを要しない。しかし、本件自然環境回復費は、債務が確定していたといえる。すなわち、

債務の確定の判断基準とされる通達二―二―一二(旧通達二―一―五)の三つの要件について検討すると、いずれの要件も満たしている。

(1)号の当該事業年度終了の日までに当該費用にかかる債務は、大阪府知事の許可条件、地主との契約により成立している。

(2)号の当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実(採石による山林、岩石の取崩し、採掘)が発生している。

(3)号の当該事業年度終了の日までに勾配整形、土盛り、排水、防災工事、植林準備費用等の内容は定まつているので、その金額を合理的に算定できる。

なお、対外的な債務の確定というのは、その費用を支払うべき相手方たる直接の債権者(埋戻し費用を支払うべき相手方)をいうのではない。

3 仮に、本件自然環境回復費が確定していない場合には、まず原告会社が、その金額を見積り計上し、原告会社が計上していなければ、被告が見積り計上すべきである。

(1) このことは通達二―二―一も明言するところであるが、この通達を待つまでもなく、本件自然環境回復費が一号原価である以上、費用、収益対応の原則、公平の原則、税務実務の慣行、資本充実の原則等から当然のことである。

(2) 見積り計上すべきものである以上、いかにその見積りが困難であつても、その状況下において可能な限り適正、合理的な見積りをすれば足りるのであり、また、そうすべきものである。

(3) 原告会社は、通達の改正後、訴外広畑設計土木造園堺事務所(以下、広畑設計事務所という)にその費用を見積らせ(甲第九号証の一、二)、これを基礎に自然環境回復費を昭和五五年六月期から損金に算入している。

ところで、自然環境回復費の見積りの可能性については、過去も現在もなんら変らない。そのうえ、現在において見積り計上できるのであるから、過去においても見積り計上は十分可能であつた。しかも、原告会社が本件で主張している自然環境回復費は必要最少限度のものであり、実際に要するものを下廻るのである。

(4) 見積り計上は、第一義的には納税者である原告会社がすべきであるが、納税者が見積り計上していないか、その計算が適正、合理性を欠いていると認められる場合には、被告が適正に見積り計上すべきである。特に更正処分をする場合は、なおさらである。

4 本件自然環境回復費は、確定決算の適用を受けず、公表決算に計上していなくても、被告がこれを損金に算入すべきである。

本件自然環境回復費は、一号原価であるから、その債務の確定を論ずるまでもなく、見積り計上すべきことは当然である。

原告会社は、別表(四)の(1)ないし(3)の別口利益金の明細に記載されているとおり、昭和四五年六月期ないし昭和四七年六月期の間は、益金、損金とも相当多額の金額を除外しており、本件自然環境回復費のみを計上していなかつたものではない。

そして、被告は、この別口利益金の明細のとおり、一方で益金を加算するとともに、他方で各種損金を計上しているのであるから、本件自然環境回復費の損金計上のみを除外すべきではない。

確定決算の原則は、内部計算に係る損益についてのみ適用されるもので、本件自然環境回復費は、大阪府知事の採石許可条件及び地主との契約により発生する、いわゆる外部取引であるから確定決算の原則の対象とはならない。

通達二―二―四が、一方で埋戻し費用を一号原価と認めながら、他方、決算に計上していることを損金算入を認める条件としていることは、不当な制約といわざるを得ない。

また同通達は、納税者が継続して同通達の示す算式に従つて金額を計算していることをも、損金算入の条件としているが、同条件は同通達新設後の事業年度の計算に適用されるものであつて、同通達が新設されるまでの事業年度についてまで納税者がその算式で計算していたことを必要とするものではない。

四  原告会社の反論に対する被告の再反論

(一)  原告会社の反論(一)は、つまるところ、将来支出の必要があるとする自然環境回復費が、本件係争年度では、未だその具体的数値を把握することの不可能な、一般的、抽象的な義務ないしは債務として存在することを説いているにすぎない。

本件採石地に関する原告会社と土地所有者との契約をみても、その跡地処理に要する盛土の方法、土の種類等が全く未定であり、しかもそれが具体的に何時行われるのかも不明であるから、本件自然環境回復費は、到底具体的な債務として確定しているとはいい難い。

(二)  仮に、甲第一五号証の計算の基礎となる数値の計算が適正であるとしても、その計算の基礎となる埋戻しに要する費用の額の見積額、当該事業年度に当該土地から採取した砂利等の数量及び当該土地から採取する砂利等の予定数量のいずれもが、本件係争年度からすでに三年ないし一〇年を経過した昭和五五年六月現在のものであつて、本件係争年度末の具体的事実に基づいて把握されたものではない。右数値に基づく原告会社の主張は、単なる机上の計算によつて算出された金額であつて適当ではない。

そのうえ、右計算の基礎となつた見積書(甲第九号証の一、二)は、その単価が原告会社の意向に基づいて修正された恣意的なものであり、また、見積りの基礎は、土地所有者との契約に基づくものではないから、見積書自体適正を欠く。

なお、別表(六)によつて計算された原告会社の昭和四九年六月期ないし昭和五二年六月期の各自然環境回復費は、それぞれ昭和四七年一二月末現在の埋戻した要する費用の見積額一億六、〇一六万円を基礎に計算した前記の損金算入金額にインフレ率を考慮しながら売上(採石量)の増減比を乗じて各期の損金を順次計算したとされているが、修正比率、仕入物価上昇率を使用していること等その計算方式は、原告会社独自の考え方に基づくものといわざるをえない。

(三)  自然環境回復費の損金計上の根拠(一号原価該当性)に関して

1 税法上、損金というためには、少くとも当該事業年度内に対外的な債務の確定による具体的な金銭的数値をもつて計算し得るものであることが不可欠であり、この要件を満たさないものに損金性が与えられる余地はない。つまり、特定の事業年度に帰属する損金の額のうち、当該事業年度の収益に対応するものが原価であり、これに対応しないものは、それが実質的には全体としての収益に対応すべき原価性を有する費用であつても、原価外の費用とするほかはない。

そして、本件自然環境回復費が対外的な債務であるというためには、本件係争年度末に自然環境回復工事に着手するか又は工事施行に必要な資材を購入する等対外的取引に基づいて具体的に発生した営業上の債務であることが必要である。

ところが、本件自然環境回復費は、単に原告会社が採石完了後に支出が予想される費用の見積額にすぎず、対外的に確定した債務ではない。

したがつて、本件自然環境回復費は、たとえ原価性があるとしても、税法上、本件係争年度での損金性は認められず、将来、その採石完了後に現実に支出が行われた場合、その事業年度に発生した事後的費用として損金の額に算入することになる。

2 原価と債務の確定について

(1) 一号原価は、収益との客体対応の関係にあるから、一般的に、収益が実現した時点、すなわち、売上を計上すべき時点でこれに対応してその収益を得るために払つた犠牲、すなわち、売上原価等が具体的に債務確定の状態にあることが必要である。

また、一号原価は、外部取引によつて発生した仕入商品又は原材料の代価のほか労務費及び付随費用等外部取引によつて個々に発生した各種の費用が、企業の内部計算によつて集合、結合して算出されるものである。したがつて、原則として一号原価を構成する費用自体は、債務として確定していることが必要である。

(2) もつとも、債務の確定は、金額として確定することまでは要求していないから、対外的に発生した費用については、その意味においては原価の見積り計上が認められる。

しかしながら、一号原価の解釈上、損金の額に算入される見積原価は、債務の確定したものを意味するのであつて、対外的にいまだ発生していない費用を見積つて一号原価に計上することは、別段の定めによる特例がある場合を除き、原則として認められない。

(3) したがつて、本件自然環境回復費のように、将来支出の可能性があるというだけで、現に債務として対外的に発生していないものは、債務が確定したとはいえないから、一号原価には該当しない。

3 通達二―二―四について

右通達は、自然環境回復費が当然に一号原価に該当することを認めたものではない。すなわち、

(1) 自然環境回復費は、本来、事後的費用に該当する(ここでいう事後的費用とは、販売収益の実現した時に将来発生の予測はされるが、その販売時には必ずしもそれが確定した状態になつていない費用をいう)。つまり、砂利採取地の埋戻しは、砂利採取が終つた後に行われることになるから、砂利の採取及び販売の時点では、その採取のために直接要する費用だけがその採取した砂利の取得価額となり、その後に生ずる埋戻し費用は、事後的費用になる。

したがつて、事後的費用を売上げをした時点で見積り計上することは、将来発生することが予測される費用の見越計上すなわち引当金の計上を認めることにほかならない。ところが、法は、引当金の計上については法定主義によつており、別段の定めのあるもの以外は損金算入を認めないから、別段の定めのない事後的費用の見積り計上は到底認められない。

(2) しかしながら、原価性を有する見越費用が、将来発生する蓋然性が高い場合には、企業会計上できるだけ収益に対応するよう計上することが望ましい。

そこで、社会経済上の要請に対応すべく、通達は、原価に係る債務確定基準を緩和する取扱いを定め、原価性のある見越費用で、企業会計に重大な影響を及ぼし、かつ、課税所得計算上も無視できないと認められるもののうち、一定の要件を満たすものについて、いわゆる見積原価の計上を認めることで調整を図つたのである。

(3) その結果、本来的には事後的費用である砂利採取後の埋戻し費用について、土地所有者との契約で採取後の跡地を埋戻して土地を原状に復することを約束しており、契約上の義務としてその埋戻し工事の内容及び特定性が極めて明確で、かつ、埋戻し費用の支出及びその金額が客観的、一義的に明らかである場合には、契約上の覊束性が強固であるところから、通達二―二―四によつて、砂利の採取の進行に応じて埋戻し費用を適正に見積り、これを採取した砂利の取得価額に算入することを認めることにした。

(4) このように、通達二―二―四は、砂利採取地に係る埋戻し費用が、砂利等を採取して販売を継続している期間中の各事業年度の販売収益に対応して損金に算入すべき当然の一号原価であるとしたものではない。埋戻し費用は、現実に発生した費用ではなく、埋戻しが現実に行われた事業年度の事後的費用として損金計上をすべきであるが、その埋戻し費用には原価性が認められることから、合理的な見積り計算に基づいて確定した決算に計上することを条件に、税務執行上の特例としてその見積額の原価算入を認めたものである。

4 原告会社は、自然環境回復費の損金算入を認めないのは資本充実の原則に反すると主張するが、商法上の資本充実の原則は、税法の立場とは次元を異にする。

(四)  仮に、本件自然環境回復費が、一号原価に該当し、債務の確定を要しないとしても、見積り原価が損金に算入されるためには、(1)具体的にその金額を見積り得ること、(2)継続的にその方法を用いること等合理的に計算することが健全な会計処理上必要である。そして金額を見積るということは、損益面では売上に対する原価として把握され、貸借対照表上債務(未払金)として計上されるだけの資格を備えなければならない。したがつて、単なる見込みや引当ではなく、事実を具体的に把握し、これを金額として測定しなければならない。

ところが、原告会社は、土地所有者との間で採石後の跡地には植林できる状態にする旨約束しているだけで、右約束は跡地処理についての具体的な内容を欠き、具体的な債務が存在したとは到底いえない。また、右約束からは埋戻しに要する費用の金額を具体的に見積ることができない。したがつて、原告会社が主張する本件自然環境回復費は、損金に算入できない。

(五)  通達二―二―四の趣旨は、前述したとおりであるから、その運用は、次のとおりにされなければならない。

1 不遡及

通達二―二―四が新設された昭和五五年五月一五日以前に遡及してこれを適用することは、かえつて他の納税者との公平を失するから、過年度への遡及適用は許されない。

2 確定決算の原則

(1) 一種の内部取引であると認められる砂利採取地に係る埋戻し費用は、現実に埋戻しを行う日の属する事業年度まで対外的な実現をみない費用であるから、課税庁がその計算の基礎となる具体的事実関係を把握することが困難であり、その額を確定することは不可能である。

そこで、通達は、法人が当該事業年度末の現況での自然環境回復計画等の具体的事実に基づいて計算した適正な金額を、法人の内部の意思によつて未払金に計上したときはこれを認める趣旨である。したがつて、通達が適用されるためには、法人が当該事業年度末の現況での埋戻し工事を行う具体的な計画をもつていること、そしてその計画をもとにして計算した適正な金額を当該事業年度の損金と認識し、これを未払金に計上することが必要である。単なる見込みに基づく引当の計上を許容するものでなく、いわんや法人自らが計上していない場合に課税庁がすすんで計算のうえ損金に算入するという性質のものではない(すなわち、確定決算の原則が適用される)。このことは、通達の文言からも明らかである。

被告が原告会社の確定した決算への計上の有無にかかわらず、本件係争年度の損金として認容すべきものは、債務確定基準により本件係争年度に発生した費用であることが認識できるものに限られるから、本件自然環境回復費のような単なる見積金額は、損金として認容すべきものではない。

(2) 原告会社は、昭和四五年六月期ないし昭和四七年六月期までの三事業年度では、埋戻しに要する費用の計上をしていないし、原告会社自体も損金としての認識がないから、右三事業年度の損金に算入される余地はない。

また、原告会社が昭和四九年六月期ないし昭和五二年六月期までの四事業年度で損金に算入した金額(別表(六))は、既に述べたとおり、単なる見込みに基づく引当にすぎず損金算入しうるものではないし、原告会社自体がその確定決算に計上した金額を超える金額は損金に算入される余地がない。

3 継続性の原則

通達は、自然環境回復費について、〈1〉具体的に発生した時点の損金として処理する方法と、〈2〉各事業年度末の現況での埋戻し費用を適正に見積りこれを採取した砂利等の取得価額に算入する方法との選択を認めた。

このように、二つ以上の会計処理の方法の選択が認められている場合、その選択は、各事業年度末までに法人が行うべきであつて、法人がいつたん選択した会計処理の方法は、その後も継続すべきである。

ところが、原告会社は、本件係争年度のうち昭和四五年六月期から昭和四七年六月期までの間は、〈1〉の埋戻し費用が発生した時の損金とする会計処理を選択しながら、本件訴訟では、先に選択した会計処理の方法に代えて〈2〉の埋戻し費用の見積り計上を認めるべきであると主張する。しかし、原告会社の主張は、禁反言の法理に反する。

また、原告会社は、本件係争年度のうち昭和四九年六月期以降、従前選択していた会計処理の方法を変更し、埋戻し費用の見積額を貸借対照表の引当金として計上しているが、この変更は、企業会計原則にいう正当な理由によるものではないから、原告会社の右会計処理の変更は認められるべきではない。

4 契約内容の確定性、工事費用見積りの適正

(1) まず、土地所有者との間の跡地埋戻しに関する明確な契約の存在、すなわち、埋戻し工事の内容が具体的、かつ、個別的、一義的に特定されていることが必要である。

ところが、本件の契約では、ただ単に、岩石採取後の跡地の処理は植林をして返還をするとか、岩石採取後の跡地処理については植林出来る状態にすると抽象的に約束しているにすぎず、その契約条項からは跡地修復義務の程度が具体的に明らかでない。そのうえ、契約上の義務としての埋戻し工事の内容及び特定性が極めて不明確で、埋戻し費用の支出及びその金額が客観的、一義的に明らかでない。

(2) また、埋戻し費用の見積りをする場合には、その金額を、各事業年度末の現況によつて合理的、かつ、適正に見積る必要がある。

ところが、本件係争年度の埋戻し費用の見積り状況は、次表のとおりであり、本件係争年度のうち昭和四五年六月期から昭和四七年六月期までの各事業年度は、埋戻し費用の見積りをしていない。昭和四九年六月期から昭和五二年六月期までの各事業年度の見積りは、具体的な工事の内容に基づかないことが明らかである。

見積年月日

金額(円)

見積業者

備考

昭四八・ 八・二五

一六〇、一六〇、〇〇〇

広畑設計事務所

甲一二

四八・ 九・ 五

八、一六二、〇〇〇

(株)岩辻園芸農場

甲二一の三

四九・一一・一四

四〇、五〇〇、〇〇〇

尊農社緑地(株)

甲二二の四

五〇・ 六・三〇

三三、五二〇、〇〇〇

(株)岩辻園芸農場

甲二三の三

五一・ 八・一〇

九二、〇〇〇、〇〇〇

(株)川島組

甲二四の三

また、原告会社は、本件係争年度から三年ないし一〇年を経た昭和五五年六月ころ作成された見積書(甲第九号証の一、二)に基づいて、本件係争年度の自然環境回復費の見積額の損金算入を主張するが、自然環境回復費は、各事業年度末の現況に基づいて見積ることを要するものであるから、後日作成された見積書に基づいて主張すること自体失当である。しかも、見積書自体適正でないことは、前述のとおりである。

第三証拠〈省略〉

理由

一  本件課税処分の経緯

本件請求原因事実中(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告会社の本件係争年度の所得金額について判断する。

(一)  別表(三)の(1)ないし(7)の事実(同表の(4)ないし(7)の加算金額中の「自然環境回復引当金当期繰入額」の部分を除く)は、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  本件自然環境回復費の損金算入について

自然環境回復費(採石跡地の埋戻しや植林に要する費用)は、それが債務として確定している限り、一号原価に該当し、当該事業年度の損金に算入することができると解するのが相当である。以下その理由を詳述する。

1  原価とは、会計学上、製造活動、販売活動、物品の保管・管理などの経営の諸活動に関連して発生する経済価値の消費であり、財貨又は用役の提供のために製造・販売などの経営目的に関連して消費される経済価値であり、正常な状態のもとで消費される経済価値である、ということができる。原価計算基準も、「原価とは、経営における一定の給付にかかわらせて、は握された財貨または用役……の消費を、貨幣価値的に表わしたものである」としている。

ところで、自然環境回復費が、このような会計学上の原価の本質を内在していることは、自然環境回復費そのものの性格からいえる。

2  証人渡辺淑夫の証言によると、土地造成業者が一団の宅地を造成して造成完了部分から分譲する場合に、宅地購入者との契約上敷設すべき道路、公園その他の附帯施設の工事が未了であるにもかかわらず、右費用を原価として損金算入することが既に承認されていることが認められるが(通達二―二―二はこれを前提にしたものである)、右の場合と自然環境回復費の場合とでは、本来的性格において異ならないといえる。つまり、両者とも、社会経済上その支出が法的に義務づけられているのであるから、税法上は、原価として損金算入することを認める必要が生じたのである。

3  通達二―二―四は、昭和五五年五月一五日、通達の第二章(収益並びに費用及び損失の計算)第二節(費用及び損失の計算に関する原則)第一款(売上原価等)の中に新設され、砂利等の採取の進行に応じて一定の算式(砂利等の採取量と比例させている)により埋戻し費用を適正に見積り、これを採取した砂利等の取得価額に算入することを認める、としている。したがつて、その配列の位置や文言からみて、砂利採取地に係る埋戻し費用が原価であることを承認しているものといわなければならない。その理由を、敷衍すると次のとおりである。

法二二条三項は、所得金額の計算上損金の額に算入すべき金額として、別段の定めがあるものを除き、同項各号に掲げる額とする旨定めているところ、砂利採取地に係る埋戻し費用の損金算入については、別段の定め(法五二条以下の引当金などとして損金の額に算入しうること)がないから、右埋戻し費用の損金算入が認められるためには、法二二条三項各号のいずれかに該当する場合でなければならない。ところが、二号費用は、期間対応の費用であつて収益と個別的(客体的)には対応しないものをいうし、三号損失は、収益の獲得過程以外で喪失した経済価値すなわち収益と対応関係にないものをいうから、右埋戻し費用は、二号費用、三号損失のいずれにも該当せず、結局一号原価に該当するとするほかはないのである。

そして、通達二―二―四が売上原価等の款の中に配置され、右埋戻し費用を取得価額に算入することを承認し、しかも、見積り額の算定方法は、砂利等の採取量と比例して算出するというように売上と個別に対応させることになつているのであるから、この規定は、右埋戻し費用が一号原価であることを前提としたものとみることができる。

被告は、この点について、右埋戻し費用は、本来事後的費用であつて、これを見越計上することは引当金の計上を認めることになるから、税法上許されないものであるが、税務執行上の措置として、通達二―二―四によつて、特例として、一定の要件を満たす場合、その見積額の原価算入を認めたにすぎないと主張する。そして、証人渡辺淑夫の証言中には、これに副う供述部分がある。

しかし、通達が、税法上許容されていないものを代つて立法できないことは、法の下位にある通達の性格上明らかであるから、通達二―二―四は、一号原価でないものを税務執行上であれ原価として取り扱うことを許容したものとするわけには到底いかない。したがつて、この通達は、一号原価の中に包摂されるものの一事例として、砂利採取地に係る埋戻し費用のあることを明示し、右埋戻し費用は、事後に支出が行なわれる費用(広義の事務的費用)であるが、債務の発生自体が未確定であるような単なる事後的費用(狭義の事後的費用)ではなく、契約内容や費用の確実性からみて原価に該当する(ただし、後述するように債務の確定基準として一定の要件を必要とする)ことを確認したものとみるべきであつて、新しい損金を創設したものではない。

4  このようにみてくると、自然環境回復費は、一号原価として損金算入することができるとしなければならない。

なお、原告会社は、会計学上の費用収益対応の原則や商法上の資本充実の原則も、自然環境回復費が一号原価であることの根拠になると主張するが、その当否の判断をするまでもなく、当裁判所は、以上の理由によつて一号原価であると解するものである。

(三)  一号原価と債務の確定について

法二二条三項二号には、当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く旨の括弧書があるのに、同項一号にはこれがないので、一号原価は、債務の確定を要しないのではないかという疑問が生じる。しかし、損金として計上するためには、少くともその金額を見積る必要があるから、一号原価についても、この金額見積りが可能な程度に債務の内容が特定していること、すなわち、見積りの前提となる債務発生の原因たる事実(債務発生項目)は確定していることが必要であり、この意味での債務の確定を要すると解するのが相当である(通達二―二―一参照、なお証人渡辺淑夫の証言も同趣旨である)。

ところで、自然環境回復費を一号原価として計上することが許容されるには、まず、当該事業年度末までに対外的債務として確定していることが必要である。ここにいう対外的債務の確定とは、埋戻し工事をする業者や植林業者との間の具体的契約によって発生する債務に限定されるものではなく、土地所有者との間で埋戻しや植林を約束したことによつて生じている債務も含むから、土地所有者との間で締結した契約上の義務内容が、客観的、一義的に明白であり、費用を見積ることができる程度に特定されている場合には、債務の確定があるとしなければならない。

通達二―二―四は、一定の算式で埋戻し費用を見積り、これを採取した砂利の取得価額に算入することを認めているが、その趣旨は、右見積りができる程度に埋戻し工事の内容が予測できて特定され、対外的に債務が確定したと認識して評価しうる場合の評価基準の一つを明示するにある。

したがつて、通達二―二―四の自然環境回復費は、通達二―二―一が売上原価等となるべき費用に含まれないとしている。「単なる事後的費用の性格を有するもの」すなわち、債務の発生が未確定で、金額の見積りをする前提となる債務発生項目の特定ができない場合(狭義の事後的費用)と異なるのである。

(四)  通達二―二―四と適用制限について

被告は、通達が税務執行上の取扱いの特例として埋戻し費用の損金算入を認める創設的規定であることを前提にして、通達二―二―四は、通達の設定以前の事業年度への遡及適用は許されないと主張する。しかし、通達は、前に説示したとおり、埋戻し費用が一号原価になることを確認的に規定したにすぎないから、被告のこの主張は、前提を欠き採用できない。

(五)  自然環境回復費の損金計上と確定決算の原則(確定決算基準)について

自然環境回復費が対外的取引によつて生じる債務であり、一号原価に該当することは前に説示したとおりであるから、法人の確定決算に拘束されるものではないし、損金経理の必要がないとしなければならない。すなわち、所得金額の計算は、確定決算上の自然環境回復費に拘束されるものではなく、真実の自然環境回復費に従つて計算されるべきである。

被告は、埋戻し費用が内部取引であること及び通達二―二―四が原価算入を認める特例であることを前提に、確定決算上未払金として計上されていることが損金計上の要件になると主張するが、被告のこの主張は、独自の見解であり、採用できない。

もつとも、通達二―二―四が債務の確定(特定)についての一つの目安になることは前述したとおりであるから、埋戻し工事の内容が予測され、特定されるという意味で、埋戻し費用が確定決算上見積計上されていることは、債務発生項目の確定(特定)に重要な意味があるというべきである。しかし、ここで重要なことは、見積計上できる程度に債務発生項目が確定しているということであつて、確定決算に見積計上された金額そのものではない。したがつて、この見積金額が、算定上の誤りを理由にして、後に増減されることがあれば、その場合は増減された後の適正な見積金額をもつて原価算入をすべきである。

(六)  自然環境回復費の損金計上と確定申告について

確定申告は、確定した決算に基づいて行わなければならないから(法七四条)、自然環境回復費が確定申告されている場合には、見積額を計上して申告できる程度に債務発生項目が確定していたことを意味する。したがつて、確定申告をしなかつた場合でも、債務発生項目が確定していて見積計上もされており、原価算入の意思が明確であるような特別の事情があるときは、確定申告された場合と同視しうる余地があるが、このような特別の事情が見当たらないときには、一号原価としての損金計上が否定されてもやむを得ないとしなければならない。

(七)  自然環境回復費の損金計上と継続性の原則について

自然環境回復費は、債務の確定の程度によつて、前述した広義の事後的費用ともなり一号原価ともなる性質のものである。

通達二―二―四は、このことを前提に、法人にそのいずれかの選択を認めたものである。したがつて、法人が、一号原価として計算できる時期から原価として損金算入することも十分考えられるから、法人が、従前原価として会計処理をしていなかつたことを目して、継続性の原則や禁反言の法理に反するとして原価としての損金算入を否認することは許されない。

なお、原告会社は、昭和四九年六月期から昭和五二年六月期までの自然環境回復費の原価算入について、いずれも確定決算で損金に計上したうえ、本件訴訟でも引き続いて通達二―二―四の計算式によつて得られる金額を主張しているのであるから、この点では継続性があるといわなければならない。

(八)  以上の考察に基づいて、具体的に本件係争年度の本件自然環境回復費について検討する。

1  昭和四五年六月期ないし昭和四七年六月期

原告会社が、右各事業年度の確定申告で、本件自然環境回復費を損金に計上していないことは、当事者間に争いがない。

原告会社は、被告が別口利益金を加算する以上、本件自然環境回復費を損金として計上すべきであると主張するだけで、本件自然環境回復費を確定決算に計上しなかつた事情を何ら主張していないし、本件では、右各事業年度末後の昭和五五年六月の業者見積を基準にして算出した自然環境回復費の見積金額を明らかにしているにすぎない。

右事実によると、原告会社は、右各事業年度末には本件自然環境回復費について何らの見積りをしていなかつたものと推認される。

そうすると、原告会社の右各事業年度の自然環境回復費についての債務発生項目は未確定であつたとするほかはない。

したがつて、その余の点については判断するまでもなく、右各事業年度の自然環境回復費の損金算入は認められないことに帰着する。

2  昭和四九年六月期ないし昭和五二年六月期

(1) 成立に争いがない甲第二号証の一、二、同第四号証の一ないし三、証人木下佳宥の証言によつて成立が認められる同第三号証の一、同第五、六号証、同第七、八号証の各一、二、証人広畑金治の証言によつて成立が認められる同第三号証の二、弁論の全趣旨によつて成立が認められる同第一四号証の一、二、及び証人木下佳宥、同広畑金治の各証言によると、原告会社の反論(一)の1、2の(1)ないし(4)の各事実を認めることができ、この認定の妨げになる証拠はない(成立に争いがない乙第一三、一四号証が当事者間で有効に機能する契約書でないことは、成立に争いがない甲第二六、二七号証の各一、二及び弁論の全趣旨によつて成立が認められる同第二八、二九号証によって認められる)。

(2) そこで、右各事業年度の本件自然環境回復費が、原価として損金算入できる程度に債務確定があつたといえるかどうかについて検討する。

(ア) まず、右認定事実にると、原告会社は、各土地所有者との間で、採石跡地に植林をするか植林できる状態にすること(一定の盛土をし、雑木を植えて土を肥沃にすること)を約束しているから、対外的に債務が成立しているとしなければならない。

そして、原告会社は、大阪府知事から採石許可条件として緑地化修景、安定勾配整形を義務づけられているが、各土地所有者に対する前記債務を履行する際にもこれを前提とすべきことは当然であるから、右許可条件として付加されている義務(公的義務)は、各土地所有者に対する前記債務の内容にもなつているといわなければならない。

(イ) 次に、証人広畑金治の証言によつて成立が認められる甲第九号証の一、二、同第一二、一三号証、弁論の全趣旨によつて成立が認められる同第一〇号証、及び同証言によると、広畑設計事務所は、原告会社の依頼により、昭和四八年八月二五日付で第一採取場と第二採取場のうち小川広一所有地部分の植樹(盛土整地、斜面吹付を含む)の費用が一億六、〇一六万円であると見積り、昭和五〇年六月付(真の作成は昭和五五年六月)で第二採取場のうち小川広一所有地部分の復旧緑化工事(仮設、埋戻し工事、排水施設工、遊水池設置工、植栽工、諸経費)の費用が一億三、一六一万一、六七六円であると見積り、昭和五五年に第一採取場の埋戻し復旧工事(仮設費、盛土工、防災工、排水工、遊水池工、植栽工、諸経費)の費用が二億一、三九〇万〇、〇二二円、第二採取場の埋戻し復旧工事(内訳は第一採取場と同じ)の費用が五億一、四二四万三、〇一九円であると見積つたが、右各見積りは、盛土工(切工、盛土、客土を含む)については計画図面に基づいて所要数量を計算したうえ、これに建設物価基準から割り出した単価を乗じて算出し(もつとも、原告会社が自ら土建業をしていることを考慮して、標準単価より低く見積つたものもある)、植栽工については所要面積に大阪府自然環境保全条例(昭和四八年三月三〇日大阪府条例第二号)で義務づけられた緑化修復上の緑化基準(大阪府商工部発行の「採石業の手引」(甲第一〇号証)において図示されているもの)をあてはめて植樹の本数を割り出したうえ、これに標準単価(ないしはそれ以下のもの)を乗じて算出し、防災工、排水工、遊水池工については、具体的に確定した設置場所、構造、材質、規模(規模については一時間あたりの最大降水量が基準にされている)に基づいて設計図、断面図、平面図等を作成したうえ算出したものであることが認められ、この認定に反する証拠はない。

(ウ) そして、原告会社は、昭和四八年八月二五日付の見積りを基準にして右各事業年度における本件自然環境回復費を別表(六)のとおり算出し、これを自然環境回復引当金繰入額として計上し確定申告(ないし修正申告)をした(このことは、その主張自体から明らかであるが、成立に争いがない乙第六、七号証、同第八号証の一、二、同第一〇号証の一、二及び弁論の全趣旨によつても認められる)。

(エ) 右(イ)、(ウ)の事実によると、自然環境回復費の見積りの前提となる債務発生項目は、確定していたとすることができる。

もつとも、原告会社が、右各事業年度の申告に際し、自然環境回復費の金額算出のために基準にした見積りは、昭和四八年八月二五日付のものであり、厳格な意味では回復の対象となる土地の範囲も異なるが、各事業年度末に回復の対象となるべき土地と回復の内容が客観的に確定していたことは明らかであり(回復の時期が未確定であることは回復の内容の確定の妨げになるものではない)、原告会社にその回復に要する費用を当期費用として計上しようとする意思があつたことも明らかであるから、その見積り方法に若干の食違いがあつたとしても、そのために債務発生項目の確定が否定されるものではない。

(オ) まとめ

原告会社の右各事業年度の本件自然環境回復費を適正に見積り、その見積り金額を原価として損金算入するのが至当である。

(3) 本件自然環境回復費の算定

原告会社の自然環境回復費を原価として損金算入するには、右事業年度末に債務が確定していることが必要であるから、その各時点で合理的に見積ることのできる金額が計上されるべきであることはいうまでもない。しかしながら、それはあくまでも合理的な見積りであるにすぎないから、後になつてより合理的な算定方法が発見され、それを当時の客観的な事実関係にあてはめて計算し直すとき、従前とは異なつた見積り金額が算出される場合には、このより合理的な見積り金額をもつて当該事業年度の自然環境回復費として計上処理できるとしなければならない。

もつとも、確定申告による所得金額が既に確定したときは、税務制度上の別の制約からその修正が許されないのはやむを得ないが、本件のように課税処分が争われ、所得金額が未確定の段階では、当初の申告時に算定した自然環境回復費の見積り金額とは異なる金額を算出して主張することは、何ら妨げない。

ところで、成立に争いがない甲第二五号証、弁論の全趣旨によつて成立が認められる同第一五号証によると、前記昭和五五年(甲第九号証の一、二)の見積金額を建設工費デフレーターによつて修正すると別表(五)のA欄に記載のとおりであり、原告会社が各事業年度に当該土地から採取した砂利等の数量が同表のC欄に記載のとおりであり、当該土地から採取する砂利等の予定数量が同表のD欄に記載のとおりであること、そして、通達二―二―四の算式(同表の(イ)欄の算式による)によつて計算すると、本件自然環境回復費の原価算入金額は同表の(ロ)欄に記載の金額になること、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。もつとも、弁論の全趣旨によつて成立が認められる甲第二一号証の三、同第二二号証の四、同第二三、二四号証の各三によると、原告会社が大阪府知事に対し採石許可の申請をする際に添付した緑化植栽工事の見積書の金額は、別表(五)のA欄の見積金額と相違していることが認められるが、右甲号各証の見積りは、整地や盛土工事などを除外したうえでの見積金額であるから、別表(五)のA欄の見積金額が適正であることの妨げになるものではない。また、当裁判所は、通達二―二―四の算式による見積金額の算出がもつとも合理的であると認めるから、原告会社がこの算式により本件自然環境回復費を算出し、これを損金算入金額として主張することには、合理性があるとしなければならない。

なお、弁論の全趣旨によると、原告会社は、昭和四八年六月期の確定申告では自然環境回復費として三、〇〇〇万円の損金算入をし、これが税務手続上確定しており、一方、昭和四五年六月期から昭和四七年六月期については自然環境回復費の損金計上が認められないことは前に説示したとおりであるから、別表(五)のB欄の数字は訂正され、、その結果、同表の(ロ)欄の金額は、(イ)欄の算式に代入される数値が異なることによつて違つたものになるが、昭和四九年六月期以降の分については、計算上原告会社主張の金額を上廻る結果になることが明らかであるから、正確な数値の算出は省略する。

(九)  まとめ

昭和四五年六月期ないし昭和四七年六月期については、本件自然環境回復費の原価算入を認めることができないが、昭和四九年六月期ないし昭和五二年六月期については、原告会社が主張する金額のとおり本件自然環境回復費を原価として認め、これを各事業年度の損金に算入できるといわなければならない。

そうすると、原告会社の本件係争年度の所得金額は、昭和四六年六月期ないし昭和四八年六月期については別表(三)の(1)ないし(3)にそれぞれ合計金額として記載されたとおりであり、昭和四九年六月期ないし昭和五二年六月期については別表(二)の差引正当所得金額欄記載のとおりである。

三  むすび

本件各処分は、昭和四五年六月期ないし昭和四七年六月期については所得金額の範囲内でされたもので原告会社主張の違法はなく適法であるが、昭和四九年六月期については所得金額(原告会社の申告額)二、九八七万四、二五七円を超える部分、昭和五〇年六月期については所得金額(原告会社の申告額)一、六二二万二、九二〇円を超える部分、昭和五一年六月期については所得金額二、八八五万一、二一一円を超える部分、昭和五二年六月期については所得金額(原告会社の申告額)五、〇〇二万五、八七〇円を超える部分は、いずれも所得金額を過大に認定した違法があり、同部分は取消しを免れない。

そこで、原告の本件請求は、本件各処分のうち右の限度で取消しを求める部分は理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、行訴法七条、民訴法八九条、九二条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 古崎慶長 孕石孟則 山下寛)

別表(一)~(六)〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例